忍者ブログ
NARUTOメインの二次創作ブログ / いのとシカ・キバ・サイ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 


来週俺は結婚する。

相手は今隣にいる彼女ではない。
彼女にもまた婚約者がいて 再来月結婚することが決まっていた。





海が見たい と受話器の向こうで彼女が言った。
一拍置いてわかったと応えると めっずらしーとクスクス笑われる。

遠いよ?
いいよ 行きたいんだろ。

遠かろうが近かろうが 今日はどこでも彼女の行きたいところへ行こうと決めていた。
そして俺たちは電車を乗り継いで遠いこの海岸までやってきた。
訪れた春の海は暗く まだ寒々しかった。 
浜辺にはぽつんぽつんとまばらに人の姿があるだけで 夏のあの賑々しさがまるで嘘のようだ。どんよりとした灰色の雲が低く空を覆い 微かに射している太陽の光は弱々しく淀んでいた。
潮風が時折叩くように頬を打つ。
春の海とはこんなに荒々しいものなのか、それとも今日が特別なのかわからなかった。
とにかく海は波高く、 耳に入るのは波打つ音と風の音だけだ。



「やっぱまだ寒かったわねー」

隣にいる彼女が呟いた。
 
風に乱れる長い髪を繋いでない方の手で押さえ 波を見つめていた。

「そりゃまだ4月だからな」

 
「足だけでも入ろうかなって思ってたのに」

 
「やめとけ。 凍えるぞ」

 
「ちぇー 残念」


突風が顔面を直撃して一瞬息が出来なくなる。
さむいーと笑いながら彼女が俺の胸に抱きついてきた。 風で舞う髪が頬を掠める。
しばらく胸に顔を埋めていたが ふいに顔を上げ 碧い瞳で覗き込んできた。
何かを探るような そしてどこか懇願するような瞳だと思った。

(夏にまた来りゃいいだろ)

喉まで出かかった言葉を飲み込む。 言える筈がなかった。
幾度となく逢瀬を重ねた俺たちだったが それも今日が最後となるからだ。



帰りの電車の中、俺たちはずっと無言のままだった。
だけど繋いだ手に力を入れるとギュッと握り返してくる。


多分彼女は待っているんだと思った。 いや そんなことはもうずっと前から分かっていたのだ。知っててずっと知らないふりをしてきた。 そしてそれも彼女には見透かされているのだろう。
そう 俺はこのまま彼女をかっさらう勇気も 全てを捨て去る覚悟も持ち合わせていなかった。
ただじっと黙ってやり過ごそうとしている 卑怯でどうしようもない男だった。


電車の走る振動がシートから伝播する。 
俺の肩に頭を預けている彼女の顔は見えない。
窓に目を向けると雨の線が無数にガラスに描かれ その向こうに見慣れた風景が映り込んだ。
もうすぐ到着だと告げるアナウンスを聞きながら俺はゆっくり目を瞑った。

 

 

 




profile
kawaii
author: savi
log
naruto (2012)(2013)(2014)
シカいの (2012)(2013)(2014)
キバいの (2012)(2013)(2014)
サイいの (2014)
その他 (2012)(2013)(2014)
ss     
treasure
手ブロ
clap / comment
コメントなどありましたら こちらからどうぞ / 現在お礼絵は3種類です
NARUTOの非公式ファンブログのため関係者様とは一切関係ありません。
■ 無断転載・複写・加工禁止
Refuse Unauthorized reproduction of image and text in this blog, unauthorized use
since 2012/05/02

Template by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]